【MB2026-008】勝負師 孫正義の冒険(上) (ライオネル・バーバー)

 本書は記者による孫正義の伝記で、上巻はアリババ提携までを描く。初の米国人著者による作品で、忖度ない第三者視点と、日本人とは異なる着眼点が新鮮。孫の行動原理を、衝動的集中と混乱の後始末を他者に委ねる姿勢として鋭く描写し、破壊的イノベーションの倫理的曖昧さにも踏み込む。一方で、若くして留学・起業に挑み、藤田田らに直談判する大胆不敵さや、生来の勝負師としての魅力も浮かび上がる。無制限のリスク許容には偶然性も感じつつ、アウトサイダーが既存勢力に挑む痛快さが際立つ、刺激的な伝記である。

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【MB2026-007】戦闘国家(小泉悠・小谷賢)

 小泉悠の対談集。前回は黒井文太郎で、今回は小谷賢。ロシアやイスラエルの肝である「インテリジェンス」を詳細に解説するとともに、戦争を続ける国家の論理と心理を冷静に解き明かした一冊。教養書やニュースでは捉えにくい国家の「なぜ」に迫り、現代国際情勢を理解する重要な手がかりを与えてくれる。御二方はロシアとイスラエルを例に、国家の中核をなすのは軍ではなく諜報機関だと指摘。情報収集や隠蔽、先制攻撃が国家存続の前提であり、「先手を打つことが自衛」という独自の価値観を鮮やかに描き出している。

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【MB2026-006】最高の体調(鈴木祐)

 現代人の不調の原因を「文明の進化と人間の本能のミスマッチ」に求め、進化医学の視点から心身を整える方法を示してくれる。人は本来、空腹・運動・不確実性・社会的つながりのある環境で進化してきたが、快適で刺激過多な現代生活が慢性炎症や不安、抑うつを生む。著者は食事・運動・睡眠・ストレス対処・人間関係を見直し、「不快」を適度に取り入れることが、幸福感と集中力を高める鍵だ、と説く。慢性炎症を防ぐためには腸は非常に重要で、快腸のために納豆やヨーグルト、キムチなどを食べることを習慣にしたい。

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【MB2026-005】思考実験大全(岡本裕一朗)

 『思考実験大全』。本書は、「トロッコ問題」や「囚人のジレンマ」「シュレディンガーの猫」など、科学者や哲学者が生み出した思考実験を100問集めた一冊である。各思考実験を会話劇などのエピソードとして再構成し、背景や要点を平易に解説している。分量は多いが一問ごとに短く読みやすい。AIやバイオ技術の進展で倫理観が揺らぐ現代において、思考実験は新しい時代を生き抜く知性を養うものだと説いている。AIを巡る問いも多く提示され、考える楽しさと世界の複雑さを実感できる刺激的な内容となっている。

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【MB2026-004】昭和期の陸軍(筒井清忠)

 なぜかここのところ戦前の本を読むことが多かったが、それもそのはず、昨年は終戦80年・昭和100年で回顧が盛んであった上に、通俗的解釈の著書が多かった。昭和史研究の第一人者・筒井清忠は、昭和期陸軍に関する論考を集成し、甘粕大尉事件(大杉栄らを殺害)の新論を加えた。本書は軍の暴走像に距離を置きつつ、判決が甘かった理由を当時の世論圧力や社会状況から説明する。陸軍を政治・社会・文化の文脈に位置づけ、人間的で相対化された姿を描く、初学者にも指標となる到達点的研究で展開される一冊である。

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【MB2026-003】教養としてのコーヒー(井崎英典)

 コーヒーは大好きだが、実はよく理解しないで飲んでいる自分がいる。コーヒーについて学ばなくては、と読んだ『教養としてのコーヒー』。世界中で石油に次ぐ取引総額を誇るコーヒーは、世界各地でなぜ愛され続けるのか。バリスタ世界王者の著者が、歴史や栽培法からビジネス最前線まで多角的に解説する。消費量世界4位の日本や、高品質な100円コーヒーの実力を、読み応えある章として紹介し、受け継がれてきた文化史を通して描く。一杯の背後に広がる奥深い世界が伝わる。これからは産地や品種にもこだわりたい。f:id:montedio2024gotoj1:20260103151619j:image

【MB2026-002】エレガンス(石川智健)

 今年最初の小説は『エレガンス』。空襲が日増しに激しくなる1945年の東京が舞台。ライカで写真を撮ることを許された警視庁の主人公。内務省防犯課のベテランとともにB29の飛来する東京で洋装女性連続不審死の謎に挑む。戦時下でも自らの意志で美しい衣装を選択する女性たちを華麗に映し、永井荷風まで事件解決のキーマンとして小説に登場させる。先般読んだ『人びとの社会戦争』でも戦時中に女性がパーマネントをかける様子が展開されていたが、同様の状況を偶然にも続けて遭遇できたのは読書の醍醐味である。f:id:montedio2024gotoj1:20260103091726j:image