本書は記者による孫正義の伝記で、上巻はアリババ提携までを描く。初の米国人著者による作品で、忖度ない第三者視点と、日本人とは異なる着眼点が新鮮。孫の行動原理を、衝動的集中と混乱の後始末を他者に委ねる姿勢として鋭く描写し、破壊的イノベーションの倫理的曖昧さにも踏み込む。一方で、若くして留学・起業に挑み、藤田田らに直談判する大胆不敵さや、生来の勝負師としての魅力も浮かび上がる。無制限のリスク許容には偶然性も感じつつ、アウトサイダーが既存勢力に挑む痛快さが際立つ、刺激的な伝記である。

現代人の不調の原因を「文明の進化と人間の本能のミスマッチ」に求め、進化医学の視点から心身を整える方法を示してくれる。人は本来、空腹・運動・不確実性・社会的つながりのある環境で進化してきたが、快適で刺激過多な現代生活が慢性炎症や不安、抑うつを生む。著者は食事・運動・睡眠・ストレス対処・人間関係を見直し、「不快」を適度に取り入れることが、幸福感と集中力を高める鍵だ、と説く。慢性炎症を防ぐためには腸は非常に重要で、快腸のために納豆やヨーグルト、キムチなどを食べることを習慣にしたい。

『思考実験大全』。本書は、「トロッコ問題」や「囚人のジレンマ」「シュレディンガーの猫」など、科学者や哲学者が生み出した思考実験を100問集めた一冊である。各思考実験を会話劇などのエピソードとして再構成し、背景や要点を平易に解説している。分量は多いが一問ごとに短く読みやすい。AIやバイオ技術の進展で倫理観が揺らぐ現代において、思考実験は新しい時代を生き抜く知性を養うものだと説いている。AIを巡る問いも多く提示され、考える楽しさと世界の複雑さを実感できる刺激的な内容となっている。

コーヒーは大好きだが、実はよく理解しないで飲んでいる自分がいる。コーヒーについて学ばなくては、と読んだ『教養としてのコーヒー』。世界中で石油に次ぐ取引総額を誇るコーヒーは、世界各地でなぜ愛され続けるのか。バリスタ世界王者の著者が、歴史や栽培法からビジネス最前線まで多角的に解説する。消費量世界4位の日本や、高品質な100円コーヒーの実力を、読み応えある章として紹介し、受け継がれてきた文化史を通して描く。一杯の背後に広がる奥深い世界が伝わる。これからは産地や品種にもこだわりたい。